北斎忌 元浅草・誓教寺 すみだ北斎美術館 4月18日
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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。
本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。
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日本で最も有名な浮世絵師といえば葛飾北斎である。
中でも「富嶽三十六景」に著名な三点の富士の絵があり、その中でも群を抜く作品が「神奈川沖浪裏」である。
ダイナミックに荒れる波に翻弄される小船と遥かに見える富士の山。
海の濃い青とはじける白い波の対比の見事さ、世界中に衝撃を与えた作品である。
四月十八日は北斎忌である。
享年九十歳といわれる長寿で当代随一の浮世絵師であったが、「あと十年、いや五年生きられれば真の絵が描けるのに」と言って死んだという。
晩年自らを画狂老人と号した北斎の恐ろしいまでの絵に対する執念である。
杉浦日向子のマンガに「百日紅(さるすべり)」の題で北斎と娘のお栄を扱った作品がある。
タイトルの百日紅は百日もの間咲き続ける花で、北斎の百歳に迫らんとした生涯とその旺盛な創作意欲を重ね合わせている。
元浅草の誓教寺に北斎の墓がある。
命日にお参りに行った。
住職のご家族であろうか、子供たちも遊びまわっていて大変家族的なお寺さんである。この日は特別に北斎の法要が行われる。
本堂には寺が所有している二幅の絵がこの日限定で掛けられている。
ひとつは達磨、もうひとつは四谷怪談に材を取った骸骨絵である。
北斎漫画の和綴じ本も閲覧できるように置いてあり、熱心なファンが見入っている。
住職の説明もあり、お茶とお菓子などもいただいて、大変申し訳なかった。
墓には供え物と線香の香がこの日が北斎の命日であることを知らせている。
墓参りの後、2016年にオープンした両国にある北斎美術館に行く。
超近代的な建物であるが、面白好きの北斎が見たら喜んだ気がする。
ただ命日であるが特にイベントや特別展などは行われていない。
不思議に思って展示室に入る前に係の方に「今日は北斎忌ですよね?」と念押ししたら、明らかに動揺した表情を浮かべたので、それ以上の追及はやめた。
いや、驚いた。
しかし知らなければイベントなどやりようがない。
館内を暗くし、浮世絵が引き立つように照明が考えられ、印刷物といえども当時の彫師の本物の描線と摺り師たちによる色の鮮やかさにうなる。
紙の違いもあるのだろうが、現在の印刷技術が手作業に完全に負けているのだ。
このことの確認をするだけでも見る価値がある。
展示している浮世絵の点数が少ないのが難点だが、コンピュータを使った北斎漫画の紹介やゲームなど子供も楽しめる内容である。
であるから春画はない。
見せないのではなく、ない。
春画だって北斎作品には違いない。
入場制限を設けても1コーナーであっても展示するべきである。
春画大国日本であるが、どうも公開に関しては後進国である。
英国で大評判であった大英博物館特別出品を含む「春画展」が日本で公開する際どこの美術館も気後れして手を挙げなかったため、公開できない事態になりそうだった際、小さな永青文庫が手を上げて公開したら異例の大ヒットになったことや、村上隆のオブジェ「ロンサム・カウボーイ」が海外で高値落札されたニュースを伝える新聞の写真が作品の下半身を映さないなど、「海外で評価されたから紹介しているけど、本当はいいと思っていないでしょ?」と突っ込みたくなることが多い。
誤解を承知で申しあげるが、作家や画家など芸術家の多くは一般人から見れば変態である。
芸術家にならなかったら犯罪者だった可能性すらある。
変態であるがゆえにたどり着ける境地が芸術を生むといっていい。
小奇麗な作品や居間に飾っておける作品が芸術だと思っている方が多すぎるのが情けない。
世界的には日本の意識は百年ずれているといっていい。
日本美術界はまだまだ芸術を、芸術家を理解していない。
とりあえず関係者は作家の命日くらい覚えようではないか。
う~ん、道は遠い。