紅葉狩り五景(2017年)

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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。

本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。

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11月下旬になると紅葉は東京でも見頃を迎える。

紅葉の主役は何といってもモミジとイチョウである。
東京都の誇る九公園では紅葉の時期に合わせて催し物が行われる。
六義園では夜の見学を開放して紅葉のライトアップが見られる。
2017年に出かけた私の紅葉狩り五景を紹介する。 

小石川後楽園 
東京の紅葉狩りが最も美しく華やかになった頃、まずは小石川後楽園に出向く。
入口で出向かる真っ赤なモミジの美しさにまず足を止め、しばし見とれる。
園内に入ればそのあまりの美しい景観に圧倒される。
めまいがするほどの絶景に言葉がない。
モミジ、カエデ。
赤だけでなく、くすんだ赤、オレンジ、黄色、そして緑の葉が織りなす黄葉の一大シンフォニーである。
見渡す限り、金箔の日本画の屏風絵を見ているがごとくの豪華絢爛さである。
京の寺社に対して、やはり江戸東京は旧大名屋敷の庭園が見どころ満載である。
しばし我を忘れて風雅の世界に浸る。
これが日本人が長年愛し続けた景色である。
一月の椿、二月の水仙、三月の梅、四月の桜、五月の牡丹、藤、ツツジ、アヤメ、六月の花菖蒲、七月の紫陽花、八月のムクゲ百日紅、九月の萩、十月の菊とススキ、そして十一月のイチョウとモミジの黄葉。
この時期の紅葉は満開の桜、仲秋の名月、雪見、ホトトギスと並ぶ日本五景とされるのもうなずける。
園内で売られていた梅と南天の鉢植えを買い求めて帰る。

紅葉・小石川後楽園

紅葉・小石川後楽園

大田黒公園 
翌日は荻窪にある大田黒公園の紅葉を見る。
ここの庭園も見事で手入れの行き届いた池を中心にモミジの位置が絶妙である。
園内で白無垢、紋付羽織姿の若いカップルがカメラマン相手に写真を撮っていたが、まさに絵になる風景である。
12月上旬までライトアップしているので夜景も楽しめる。

旧古河邸庭園 
紅葉狩りの最後は駒込にある旧古河邸庭園に行った。
旧古河庭園では紅葉に合わせて23日に琵琶演奏、12月3日に津軽三味線の演奏が、それぞれ十一時と十五時に野外で行われる。
私のお目当てはもちろん紅葉見物であるが、もうひとつ、屋外で行われる津軽三味線のコンサートである。
立派な洋館前の舞台に立った紋付袴姿の小山兄弟の演奏を芝生広場から眺める趣向なのだが、好天とモミジの美しさが相まって最高の贈り物である。
あまりの嬉しさに、兄弟が手売りしていたCDを買い求める。
園内の紅葉は太陽の光とも関係する。
光に透けたモミジ、日陰のモミジ、落ちて池に浮かんだモミジ、落ち葉となってくるくると丸まった大量のモミジの絨毯、どれも美しく味わいがある。

古河庭園紅葉

古河庭園紅葉

古河庭園晩秋津軽三味線

古河庭園晩秋津軽三味線


神宮外苑・絵画館前 

カエデやモミジを満喫した後は神宮外苑イチョウ並木の黄葉を見に行く。
この並木のイチョウは四十四本がオスで百二本がメスの合計百四十六本だそうで四列に並んでいる。
メスが多いということは、ギンナンも多く採れるのだろうが、その時期に訪れたことはない。
11月29日に見物に行った際は見事な景観を作り出しており、イチョウの葉の黄色い絨毯で歩道を埋め尽くし樹高六メートルに及ぶ木々と合わせ、これまた圧巻でさすが東京一の銀杏の名所の名に恥じない。
見物客には絶好の撮影日和とあって親子連れも多く、子供たちが積もった黄色の落ち葉を走って蹴散らし、カップルや女性同士の見物客は紅葉をバックに写真撮影に夢中である。
ああ、モミジもいいがイチョウの黄葉もまた素晴らしい。一年待ったかいがあるというものである。

銀杏の黄葉・神宮外苑絵画館前

銀杏の黄葉・神宮外苑絵画館前

神田川の桜の黄葉 
この時期のモミジやイチョウは最高であるが、もうひとつ密かに楽しみにしているのが桜の黄葉である。
2017年は神田川沿いをじっくり歩いてその美しさに浸ってみた。
黄色い葉、深紅に紅葉した大きな葉、葉の半分以上は地面に落ち、残りの葉も枝から間もなく落ちてきそうである。
イチョウもモミジも桜の黄葉もこのバランスの瞬間が一番いい。
何枚かを拾って手に取りじっくり眺める。
特に赤い葉はいつまで見ていても飽きない深紅のリンゴを思わせる見事な美しさである。
ポケットにしまって家に持って帰り、机に並べてみる。
しかし1~2時間もすると葉は乾燥からかすぐに丸まってしまう。
モミジもイチョウもそう。
華麗にして荘厳な美しさで人を惹きつけてやまないこの紅葉とは何なのだろう。
梅や桜、桃、白木蓮の花の生命の息吹の爆発した美しさとは全く違う。
飾られることを拒否し、枯れるという生命の営みのなかで見せる美しさがここにある。
人間もかくありたいと思う。

天候に恵まれたせいもあって、大満足で2017年の紅葉狩りが終わった。
あまりにも上等な御馳走攻めに目眩すら覚えた十日間である。

 銀杏散る遠くに風の音のすれば  風生
 山くれて紅葉の朱(あけ)をうばひけり  蕪村