新暦と旧暦の混乱について

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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。

本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。

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日本人の生活、和の暮らしは日本の四季抜きには語れない。

日本の一年には四季があり、二十四節気があり、もっと細かく七十二候という季節がある。
一年を七十二に分けるというのは、現在我々が親しんでいる一年五十二週より細かい。
一侯五日ほどである。
このわずかな日にちのなかで日本人は季節の変化を感じ取って暮らしていたのである。
何という繊細な民族であることか。

 

ところが現実は世界中から押し寄せる食材に翻弄されて季節感は崩壊寸前、そして旧暦行事の新暦への移行にともなう現代日本人が置き忘れてきた、呆然とするほどのたくさんの和の知識である。

 

旧暦では十二月・師走であっても、新暦ではもう1月で正月を迎えてしまっている。
中国では今でも旧暦で正月(春節)を祝っているが、日本は明治維新後あっさり正月を新暦に移行してしまった。
しかし一年のスタートで前倒しされた一か月は、その後の旧暦行事をすべて新暦のカレンダーへ移行してしまった結果、自然現象とのずれが生じ、今にいたっても違和感が否めない。

 

まず大問題なのは日本人が大切にしていた五節句がすべて一か月ずれたことだ。
これがなぜ問題かというと、もともと五節句陰陽道で陽の月である一、三、五、七、九の奇数月に合わせた行事だが、新暦になったことで旧暦では陰の月、十二、二、四、六、八の偶数月になってしまったのだ。
意図が真逆になったわけだ。
運気や縁起が良いも悪いもごちゃごちゃになってしまった。
それに伴い季節もずらすしかなくなる。
日本の春夏秋冬である四季の区切りは何月なのか。
現在気象庁の区分では、春は3、4、5月、夏が6、7、8月、秋は9、10、11月、冬は12、1、2月である。

 

では旧歴(太陰太陽暦)ではどうか。

一、二、三月が春。四、五、六月が夏。七、八、九月が秋。十、十一、十二月が冬である。
旧歴ではきれいに一年に収まっているが、新暦では年をまたいでいる。
新暦、旧暦でかろうじて季節が合っているのは春3月、夏6月、秋9月、冬12月の4か月だけで後の八か月は季節すらずれてしまっている。
旧歴から新暦に移行した際、一か月のずれだったはずなのに季節は二か月もずれてしまっているのだ。
しかし人間が月の数を変えようが、自然現象が変わるはずがない。
整合性を持たせるには季節の意味合いを変えるしかない。
春は花が咲いている季節。
夏は暑い季節。
秋は涼しい季節。
冬は寒い季節、という具合だ。
間違っていないのでは? と思われる方は新暦にすっかり毒されてしまっている。
かく言う私もそのひとりだった。

 

旧暦の本来の春は、一月(新暦2月)春の兆しが見え始め、二月(新暦3月)春めいてきて、三月(新暦4月)百花繚乱の春になる。
という「春に向かう」、「春になる」という意味の春である。
夏も秋も冬も同様。季節の変化を楽しむ意味合いすら変わってしまっている。

 

しかし月ごとの数字を変えようが、季節の意味合いを変えたとしても、日本人に刷り込まれた旧歴の暮らしの意識を変えることは難しい。
新暦に変わったとはいえ、それぞれの月になると、やはり旧暦同様旬の食材は食べたい。
しかし自然は前倒しして野菜や魚を提供してくれない。
そこでビニールハウスでの野菜や果物の栽培が活発になり、人気の魚は遠く外国から輸入し、はたまた養殖できるよう知恵を絞るようになる。
しかしいくら知恵を絞ろうと、自然をすべて前倒しすることはできない。
その典型的な例が梅や桜の開花であり、鮎やズワイガニ、鴨の禁漁・解禁であり、仲秋の名月である。
特に月に関してはお手上げである。

日本人は秋の名月を愛する。
名月は旧暦八月の満月を指す。
秋は七月が初秋、八月仲秋、九月が晩秋である。
秋の真ん中に愛でる名月だから仲秋の名月なのだ。
新暦では8月は夏であるし名月も現れない。
名月が見られるのは9月だが、やはり名月は仲秋でなくてはならない!
これだけはゆずれないので名月を見るときだけ旧暦に頭を切り替えるのだ。

「今は仲秋である」と。

 

日本の伝統行事に関わる方や、旬の素材を天然物に頼る料理人などは正月や、お盆、七夕などを旧暦でおこなうことがあるが、たいがいの行事は新暦で行われている。
本書では、旧暦での季節分けを行っているが、行事のほとんどが(命日までも!)新暦に移行されているため、実際に行われている新暦の日程を旧暦に当てはめている。
二十四節気や七十二侯の記述と、実際行われている新暦旧暦混在のカレンダーで混乱する方も多いと思うが、これが現実の我々の生活である。
実際、私もこのずれにはいまだに慣れずにいる。

 

さて、第一回目は大問題である秋八月・仲秋と第十五節気・白露である。
新暦では9月上旬ということになる。

本ブログは二十四節気の節気ごと、約二週間ごとに更新を考えている。
どうか興味のある方はお付き合いいただけたら幸いである。