風鈴祭り 西新井大師(だいし) (2018年)
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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。
本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。
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お気に入りの風鈴が欲しい。
毎年募る思いは、もはや限界であった。
風鈴は日本の夏に欠かせない風物詩である。
では我が家に風鈴がないかといえばひとつある。
南部鉄器で作られた折り鶴を象(かたど)ったものでなかなかいい。
ならそれで充分じゃないかと思われるであろうが、私が最も欲しいのはガラスの風鈴である。
江戸東京には江戸風鈴というガラスの風鈴が名物である。
金魚や朝顔などが素朴に描かれたもので朝顔市や鬼灯市などでは鉢植えのオマケに付けて売られていたりする。
「なるほど。身近にあるじゃないですか」という声が聞こえてくるが、実は悩みが深いのはその江戸風鈴なのだ。
大きな声では言えないが、小さな声では聞こえない。
なので普通に言うと、それらの風鈴の絵があまりにも稚拙かつ安易に描かれているため、とても飾る気にならないのである。
決定的なことを申し上げると、何も描かれていなければまだ欲しいと思えるくらいの出来なのだ。
江戸風鈴の本場であるだけに、ほかのガラス風鈴を見たくても見られず、欲しくても買えないというジレンマに陥っているのである。
というわけで、意を決し風鈴まつりに行ってきた次第である。
毎年7月いっぱい、西新井大師の境内で全国から出品された風鈴祭りという名で展示即売会が開かれる。
会場はヨシズで囲われており涼しさを演出しているが、当日はものすごい猛暑で日なたに十秒といられないほどである。
そばの池では鳩が集まっており、暑さに耐えかねてまるで川鵜のように水に潜っている!
水浴びではない。
完全に潜っている。
いや~、初めて見た。
それほどの暑さである。
当然この猛暑に気圧されて、訪れている人は本当にまばらである。
人は涼を求めて移動するが、そんな気を起こさせないほどというのは凄まじい。
それでも何とか気を取り直して風鈴を見て回る。
全国の窯元の陶器の風鈴、ガラスの風鈴、鉄器の風鈴などさまざま吊るされている。
全国の風鈴ということだが、江戸風鈴はないので申し訳ないがちょっとほっとする。
ガラスの物は京都などから出品されており、期待通り使い捨て風ではなく見事な工芸品である。
さすがに値段も江戸風鈴の1個五百円、千円ではなく、五千円、八千円、一万円である。
覚悟はしていたが結構な値段である。
炎天の中逡巡し、途中でかき氷を食べてまた逡巡し、選んだ物は瀬戸焼のカエルがついたガラスの風鈴と、風で豚の尻尾についた羽根が回る笠間焼の風鈴である。
見ているうちにガラスにあまりこだわらなくなったほど、楽しい風鈴が多かったのである。
選んだら用紙に番号を書いて、販売所へ行き、係の人に在庫を出してもらって買う。
「はい。カエルさんと豚さんですね。どうぞ」
巫女姿の女性から手渡され、和楽の良品を求めるはずが可愛いが優先してしまった。
おやじなのでちょっと気恥ずかしい。
家に帰って吊るして眺める。
これはこれでいいが、やっぱりお気に入りのガラスの風鈴が欲しいと思う。
できれば江戸風鈴のお気に入りが欲しい。
江戸風鈴、自分で絵を描くか。
それなら下手でも気に入るかも。
風鈴の音を点ぜし軒端かな 虚子