桜の森の満開の下
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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。
本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。
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この坂口安吾の短編小説で描かれる桜の森もまた死のイメージである。
何も恐れるものがない山賊が満開の桜の森とそこに吹く風だけは怖ろしいと感じ、その時期は近寄らないようにしていた。
山賊は山を通る人を殺め、女を自分の物にする。
美しくわがままな女を手に入れた山賊は女に言われるまま都へ行くが、なじめず再び山に戻る。
ちょうどそのときは桜の満開の時期で背負っていた女が突然醜い老婆の鬼になっていた。
男は驚いて化け物を振り払い絞め殺すが、それは男が愛した女であった。
女は桜吹雪となり舞い散り、男もまた消え失せた。
あたりに残ったのは桜の花びらと吹いている風だけだった。
坂口安吾は東京大空襲で亡くなった人々を上野の山で焼いたとき、おりしも桜が満開で人気もなくただ風だけが吹いていた。
その恐ろしくも美しい光景を終戦後作品にしたのがこの「桜の森の満開の下」である。安吾の最高傑作として知られる。
満開の桜はなぜこの世のものと思えないほど美しいのか。
桜の木の下には何かとてつもなく恐ろしいものが埋まっていて、それを養分にしているのではないか。
そうでなければあれほど人を狂わすまでに美しくはならないのではないか。
作家の繊細かつ鋭敏な感受性が我々の感性を揺さぶってやまない。