雪見とガラス入りの障子

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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。

本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。

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花見、月見と並んで季節の楽しみなのが雪見である。

 

大寒の最後に来る七十二候、旧暦で一年の最後は東京では最も寒い時期である。
札幌では2月上旬から巨大な雪像群で知られるさっぽろ雪祭りが開催される。
新潟の豪雪地帯で知られる十日町の第六十九回(2018年)雪まつりは2月中旬の三日間、雪像アートのほかにもプロジェクションマッピングなどを使った今風のイベントが充実している。

山形県のスキー場・蔵王名物のアイスモンスターと呼ばれる樹氷も見ごろである。
日本で樹氷群が見られるのは蔵王だけ。
雪と寒さと風が作りあげる奇跡の一大パノラマである。
いずれも雪という自然の恵みを生かし楽しみに変えている。

冬は寒くて嫌だとお嘆きの貴兄、寒いからこそ冬、どうせ寒いなら嘆かず楽しもう。
ぬるきを嫌う茶道の世界では冬の最も寒い時期に開く茶会がある。
四季があるから日本は楽しい。

 

で、私といえば蔵王と同じ山形の山間の温泉宿に出かけた。
雪に埋もれ、旅館の送迎車がなければ下山もままならない隠れ温泉宿である。
そばに観光地もなければ出歩くこともできない。
まぁ、こちらは雪見に来ているのだからそれでいいのだが。

部屋から見えるガラス窓を覆うほどの長いつららとその隙間から見える雪景色を眺め、米沢牛のすき焼き鍋をつつきながら燗酒をいただく。
ほろ酔い気分で旅館の外にある露天風呂に真夜中に入りに行き、真っ暗闇の中、降りやまない白い雪を見ながらのおひとり様の風呂は畏怖すら覚える異空間であり、極上の雪見である。

 

東京に帰ってきてNHKのTV番組を見ていたら窓ガラスや、障子の一部にガラスが入ったのは明治以降であることを知った。
そうだよな。
ガラスだもん。
つまり、それまでは寒い冬に家の中から雪を見るためには障子を開けなければならなかったのである。

晴れた日の日中ならいざ知らず、吹雪の夜なら悦に入る前に凍えてしまう。
楽しむどころではないはずである。
それがガラスの登場で、家にいながら雪見が昼も夜も嵐でも楽しめるようになったのだ。
これはすごい生活の変化である。

 

ただし当初はガラスの値段が高かったため、障子の一部にしか使われなかった。
それが今日よく見る、ちょうど正座した時の視線の位置にのみガラスの入った障子である。

ガラス入りの障子戸,座敷

ガラス入りの障子戸

あれはあれでなかなかの優れ物で、ガラスと障子の絶妙な配分と、和室の雰囲気も壊さない素晴らしい和洋折衷なのである。
いまやその障子のガラス部分は部屋の中から外の景色で見せたい部分だけを見せる額縁の役割をこなすようになったのだ。

この効果は茶室や庭園を臨む部屋などにも取り入れられているほどである。
怪我の功名というか、とてもケチから始まったとは思えない。

 

 門を出て行き先まどふ雪見かな 荷風

 雪見酒一とくちふくむほがひかな 蛇笏