白桜忌 5月29日

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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。

本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。

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5月29日は白桜忌。
与謝野晶子の命日である。
阪堺市に与謝野晶子記念館がある。

 

二十二歳の時に出版された処女歌集「みだれ髪」で詠われた妻子ある与謝野鉄幹への恋心と女性の官能を情熱的に描き、発表当時賛否両論を巻き起こす。

 

 やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君

 くろ髪の千すじの髪のみだれ髪かつおもいみだれおもいみだるる 

 その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな

 

発表された短歌から取って「やは肌の晶子」の異名がつくなど、進歩的女性の急先鋒となる。

若さゆえかあまりにもまっすぐな恋心にめまいがする。
短歌は恋を詠うことでその威力を百倍にする希有な形式であると改めて確認するのである。

そしてもうひとつの与謝野晶子の代表作はもっと強烈である。

 

 「君死にたまふことなかれ 旅順口包圍軍の中に在る弟を歎きて」

あゝをとうとよ、君を泣く、君死にたまふことなかれ、末に生まれし君なれば 親のなさけはまさりしも、親は刃をにぎらせて ひとを殺せとをしえしや、人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや。

堺の街のあきびとの 舊家(きうか)をほこるあるじにて 親の名を繼ぐ君なれば、君死にたまふことなかれ、旅順の城はほろぶとも、ほろびずとても、何事ぞ、君は知らじな、あきびとの 家のおきてに無かりけり。

君死にたまふことなかれ、すめらみことは、戰ひに おほみづからは出でまさね、かたみに人の血を流し、獸の道に死ねよとは、死ぬるを人のほまれとは、大みこゝろの深ければ もとよりいかで思(おぼ)されむ。
 あゝをとうとよ、戰ひに 君死にたまふことなかれ、すぎにし秋を父ぎみに おくれたまへる母ぎみは、なげきの中に、いたましく わが子を召され、家を守(も)り、安しと聞ける大御代も 母のしら髮はまさりぬる。

暖簾のかげに伏して泣く あえかにわかき新妻を、君わするるや、思へるや、十月(とつき)も添はでわかれたる 少女ごころを思ひみよ、この世ひとりの君ならで あゝまた誰をたのむべき、君死にたまふことなかれ。

 

私は戦争を知らない子供である。

その私ですらこの百年前に書かれた与謝野晶子の死地での弟に対する絶叫にも似た感情のほとばしりに、勇気に、圧倒され感動する。

戦争の悲劇は語り継ぐことで二度と起こしてはいけない。
頭で理解しているつもりでも平和ボケの感情は時に軽い気持ちで最悪の選択をするかもしれない。
ぶれてはいけない。晶子に叱られる!