明治神宮大祭・文化の日 11月1~3日

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新型コロナウイルスによる感染拡大によりほとんどの祭やイベントが中止になり、緊急事態宣言解除後も密を避けるために、また準備不足などで秋までは中止の続く日々が続きそうです。

本ブログも一時中止していましたが、過去の祭やイベントを掲載することで気分だけでも東京の江戸情緒や楽しさを味わっていただけたらと思います。

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11月3日は文化の日である。

正月と並んで天気の良い日として毎年記憶に残る。

もともと文化の日は、明治天皇の誕生日なのだそうだ。
生まれた日は江戸時代であるから旧暦の九月二十二日だったそうだが、明治に入り新暦に移行した際、11月3日が九月二十二日にあたったため、誕生日に定め、戦後日本国憲法公布の日をこの明治節に合わせ、文化の日と名称を変えたようである。

 

これまで記してきたように、多くの行事や文人、武人たちの生没年でさえ新暦に単純に移行されているのに対し、明治天皇だけは特別扱いである。
特別扱いは別にかまわないが、やはり記念日としてを移行するなら、単に数字を優先するのではなくその日の季節感を重要視したということがポイントである。

本書で言い続けているのはまさにこの点であって、政府というか、宮内庁なのか、明治天皇の生年に関しては譲らなかったということにかえって事の重要さを際立たせているように感じてしまうのである。

大事なことならすべての記念日をそうすべきだったと思う。
決していつだっていいじゃん的ないい加減ですむことばかりではないはずだからだ。

 

その明治天皇の生誕祭が明治神宮秋の大祭である。
11月1日から3日にかけて行われ、1日が鎮座記念祭、第一日夕御儀の儀と能楽協会奉納の能・狂言日本三曲協会奉納の「越後獅子」生田流筝曲、「山谷菅垣」琴古流尺八本曲、2日が第二日の儀と日本舞踏協会・長唄協会奉納の長唄「下記猿(げきざる)」と「松の翁」。
そしてメインの3日に勅使参向が行われる例祭と天皇皇后杯をかけた全国弓道大会、合気道演武、十数種の流派による古武道演武、そして日本弓馬会奉納の武田流流鏑馬が披露される。

1、2日が文化芸能、3日が武道である。
文化芸能を奨励しながらも、武術が最も重要な位置に置かれているといったところか。明治・大正、昭和と軍事大国の道を突き進んだ日本の姿とも重なり興味深い。

 

私は初めて出かけてみた。
お目当ては1日の能狂言、3日目の流鏑馬弓道大会である。

1日の朝、雨が降っていたため、本宮の前に設置されていた舞台での実施が危うく、その後も昼近くなっても天候が不安定であったため、念のため本宮内に急きょ簡易舞台がしつらえられて能と狂言が行われることになった。
客席も100人分ほど椅子が用意され、運よく私は最前列での鑑賞となった。

舞台の演者との距離最短は2メートル以内である。
演者の息遣いから瞬きまで見え、こちらまで緊張する。

 

演目は大蔵流狂言「口真似」と今剛流・能「羽衣」の後半部分。

「口真似」はとぼけた演技でかなり笑わせる。
「羽衣」は豪華な衣装での舞が見どころだが、個人的には初めて間近で見る小鼓(つづみ)の技能に釘づけ。
見事というほかない。

 

3日はお目当ての流鏑馬が午後からのため、午前中は主に古武道の演武を観る。
古武道の剣は基本的に真剣を用いる。

多くは居合と違い、刀だけでなく、棒術、短剣、薙刀、鎖鎌など、いくつもの武器を使えるように鍛錬している点である。
武器がなくても素手で闘い、捕縛術なども用いて相手を縛りあげるなど、実に実践的でもある。
いわゆる剣道の元になっている各流派であるが、かなり少数派であるにもかかわらず、その実用的実践向きであることから、外国人の門弟もかなり見受けられた。

 

弓道大会に関しては実質日本一決定戦である。
男性の一位に天皇杯、女性の一位に皇后杯が授けられる。
弓道を志す方々の最高の晴れの舞台である。

同じ3日には日本武道館で剣道の日本一が決められる大会がある。
こちらも天皇杯皇后杯が授与される。来年は日本武道館に行ってみよう。

 

続いて流鏑馬会場の馬場に行く。
流鏑馬が始まると観客は一斉に馬場に駆け寄ってくる。
選ばれた騎射の者の衣装のきらびやかさ、馬具の美しさでまず観る者を圧倒する。
この流鏑馬の衣装は狩り装束だそうだ。

今回の的は板製で三つ。
一の的、二の的、三の的を順に馬を駆けながら射抜いて行くわけだが、鎌倉時代から的の間隔は変わらないかわりに、馬が大きくなり足も速くなった分、現在のほうが難しいという。

流鏑馬神事に関わるのは騎射する者だけではなく、諸役と呼ばれる六つの役割、太鼓方、旗持ち、扇方、的目付、幣振、矢取をする方々も古式ゆかしく伝統にのっとっての作業ぶりも見ものである。

 

明治神宮流鏑馬の特長は、板の流鏑馬を二回ずつ行う俸射の中から成績上位者による、競射という競技があることだ。
こちらは的がさらに小さくなり、土器製の物に変わる。
的中の判断も厳しくなり、土器が割れて飛び散らなければ的中とされない。
なかなか手に汗握る競技である。

ほかにも弓馬術礼法の百百手式の弓の祝典、薩摩琵琶の演奏、菊花展などなど。
時節柄七五三のお参りにいらしている着飾ったお子さん連れの家族が多いのも特徴。
明治神宮の秋の大祭はイベントが盛りだくさんのため、目的を絞って見に行くことをお勧めする。

 

というわけで大満足で帰宅したら、テレビのニュースで明治神宮を映していた。
ほほう、話題は流鏑馬か? 弓道大会か?と思ったら、同時に開催されていた東京都の農業ブースで無料野菜を配ったことだった。
なぜなら天候の変化で野菜の高騰が続いているからである。

あれほどの素晴らしい催しを一秒たりとも報じないとは!と、なかなか複雑な思いではあるが、私も農業祭でクルミのつかみ取りと新米のつかみ取りに積極的に参加したことを思い出した。

うーん、武士は食わねど高楊枝のはずが…。
いやいや、お恥ずかしい次第である。

 

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明治神宮大祭1

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明治神宮大祭・流鏑馬

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明治神宮大祭・古武道